千葉 直紀

この引き出しでは「DEの基礎」として、DEの基本的な考え方や、特徴、ほかの評価手法との違いなどを、わかりやすく紹介したい。ここで示したDEの『4つの基本的姿勢』を頭に入れたうえで、それぞれの関心に沿って次の引き出しを開けていくと、DEの取り組みや評価者としてのあり方を考える参考になるだろう。

 DE(発展的評価)とは何か。DEの提唱者であるマイケル・クィン・パットン氏は、自身がDEについて詳細に解説した初めての著書『Developmental Evaluation: Applying Complexity Concepts to Enhance Innovation and Use』(The Guilford Press.)のなかで次のように定義している。

DE(発展的評価)とは、社会イノベーションなど、目的が固定されているというよりも目的自体が変化し、時間軸もあらかじめ設定されているというよりも流動的で前進的な対象を評価するための評価のやり方である。そこから得ようとするのは、外部への説明責任というよりも、イノベーションや変化から学習することである。(同書より。CSOネットワーク訳)

 しかし、この定義を読んでもよくわからないだろう。しかもDEには「これがDEだ」という細かい規定やルールは定められていない。そんななかで、唯一正式に示されているのが、前出マイケルの2作目の著書Developmental Evaluation Exemplars: Principles in Practice』(The Guilford Press.)のなかにある『8つの原則』だ。

 とはいえ、何もない状態でいきなり原則を8つも頭に入れるのは大変なので、筆者がDEに初めて触れる方にまず頭に入れておいてほしいDEの『4つの基本的姿勢』を下記にまとめてみた。

◆DEの『4つの基本的姿勢』◆

(1)DEが前提としているのは「複雑で動的な現実世界」

 まずDEが前提としているのは単純で安定的な仮想の世界ではなく、「複雑で動的な現実の世界」だ。このような世界では、常に状況が生成中なため、次に何が起こるか予測困難であり、ダイナミック(動的)で変化が早く起こり、原因―結果の因果関係が特定できない非単線系の事象の連鎖が見られる。このような理由から、問題の根本原因を突き止めようとすることは不毛で、「物事を”システム“として捉えることが必要である」というのが、DEが前提としている世界観である。

(2)ソーシャル・イノベーション[1]という目的

 次にDEが目的としているのは、ソーシャル・イノベーションやシステム・チェンジ(システム変革)、社会正義の実現である。例えば、ソーシャル・イノベーションの実現は、決まった方法論が確立されているわけではなく、試行錯誤で進めていくしかないということは直感的におわかりいただけるだろう。このような壮大な目的に対して、大きな示唆を提供してくれるものがDEなのだ。

(3)マニュアル化・標準化できないアプローチ

 物事をはじめるときには、マニュアルや手引き、標準化されたフレームがあると安心だ。評価の実践もまた然り。しかし(1)に示したように、DEが向き合おうとしているのは‟複雑な現実の世界“である。そして目的は(2)の通り、ソーシャル・イノベーションである。これはいわゆるマニュアル化・標準化の通用しない世界である。それでは、ここにどう立ち向かうか?

 DEでは、「役に立てばなんでも良い」というのが基本的なスタンスであり、アートや経営学、複雑系理論やシステム理論など、これまでの評価の枠組みを超えた幅広い方法論を参考にする。そして既存の評価・調査で用いられるデータ収集・分析手法も最大限活用する。そのため評価としても状況に適応し続け、変化していくことが求められる。

(4)DE評価者が目指すのは「共創」

 (2)で示したような、ソーシャル・イノベーションやシステム・チェンジ、社会正義の実現という目的を達成するためには、DE評価者はこれまでの評価者の役割を大きく超えていかなければならない。DEにおける評価は「中立的」なものにとどまらず、事業や活動などの「介入」の一部となる。具体的には、革新・適合のプロセスを見える化(今、まさに何が起こっているのかを見える化)し、変遷する状況を受けて継続的に、かつリアルタイムでデータにもとづくフィードバックを行い、意思決定の支援などを行うことである。

 つまりDEは、事業の外からの「中立的」な評価ではなく、事業者(ソーシャル・イノベーター)と評価者との「共創」こそが必要である。そのため評価者として日々研鑽し続ける姿勢が求められる。

 

 以上、DEの『4つの基本的姿勢』を示した。
 これを念頭に、DEの基本理解を進めるために次の引き出しもご覧いただきたい。

また、DEの基本について、初心者でもわかりやすく参考になる書籍やスライドを紹介する。

<スライド>

?『DEはじめの一歩』(SlideShare)
DEの世界が5分で大まかにつかめるスライド。「はじめの一歩」を踏み出す方はここからはじめて欲しい。

<Prezi>

?『DEやってみよう!』(Prezi)
DEの外観や全体像を俯瞰して見ることができる「絵地図」

<書籍>

?『Developmental Evaluation Applying Complexity Concepts to Enhance Innovation and Use』
2011年に発行されたDE提唱者のマイケル・パットン氏によるオフィシャルな1冊目の書籍。

?Developmental Evaluation Exemplars: Principles in Practice
2016年に発行されたDE提唱者のマイケル・パットン氏によるオフィシャルな2冊目の書籍。特に第1章と14章は、DEの全体像や事例を横断的に分析している内容が収められている。第15章に「DEの8原則」が示されている。

?『A Developmental Evaluation Primer』(発展的評価入門書)
社会変革(システム・チェンジ)や複雑な状況にどう取り組むかーー。DEの基本を解説した世界初の(!?)英文の入門ガイド

?『A Practitioner’s Guide to Developmental Evaluation』(DE実践者ガイド)
DE実践のヒントが詰まった、評価者向けのガイドブック

[1] 社会問題に対する革新的な解決法。既存の解決法より効果的・効率的かつ持続可能であり、創出される価値が社会全体にもたらされるもの。クリス・デイグルマイヤー氏 スタンフォード大学ビジネススクール ソーシャルイノベーションセンター[当時] CSOネットワーク開発セミナー「ソーシャルイノベーションへの期待~開発課題解決へのアプローチとして~」報告(2012.1.24)