書籍の出版を記念して、5月18日にインパクト・マネジメント・ラボ主催のトークイベントを開催しましたので、ご報告します。
当日は、著者・土岐三輪氏による執筆背景の紹介や、ソーシャルセクターの最前線で活躍する実践者たちによるパネルトークが行われました。

 

1.著者トーク
なぜ今、ソーシャルセクターに「事業マネジメント」が必要なのか

まず、著者の土岐氏より、本書を執筆するに至った原体験として、現場の「葛藤」から生まれた問題意識が語られました。

土岐が東日本大震災の被災地支援やバングラデシュでの農村開発など、NGOの現場で活動した際に直面したのは、「事業をどう進めるべきか」という軸や地図がないことによる混乱と戸惑いでした。
ベテランスタッフの経験や知見をもとに手探りで事業を進める中で、意思決定が対象者のためになっているのか、寄付者の方に説明できる事業になっているのかというプレッシャーを強く感じたと言います。
「現場のスタッフが自信をもって活動に取り組めるように、事業を進めるためのガイドが必要だ」と痛感したことが、執筆の大きな動機となっています。

本書は、「より良い社会」という抽象的な目的地へ至るために、その「道のり(事業)」をどう歩むかに焦点を当てたガイドブックです。
事業を前進させる4つのポイントとして、「言語化」「見える化」「共通言語」「価値観のすり合わせ」を挙げています。そして、そのために地図としてフレームワークやマップを描くこと、チームで話し合って納得や合意を図っていくためのステップを、説明しています。

2.パネルトーク
現場で直面する「混沌」と、チームが動き出す瞬間

続いて、IML共同代表の千葉直紀氏、鎌倉幸子氏を交えた、3名によるパネルトークが行われました。

まず、「現場あるある」や「混沌」の事例や経験が語られました。
現場では資金提供者(ドナー)の意向や本部の思いつき、声の大きなステークホルダーの意見に振り回され、本来の目的である「誰のために」が見失われがちです。
鎌倉氏は、かつて「混沌からの出発」という言葉を贈られた経験を挙げ、活動が拡大しても統一性が保てない難しさを共有しました。

参加者からは、「リソースが限られる中で、現場を知らない上司の思いつき(現実味のない指示)に悩まされることがある」という切実なコメントが寄せられました。
土岐氏は、ロジックモデルなどのツールを活用することで、チームの目線が合うだけでなく、「言語化し、合意した地図があることで、ステークホルダーの(悪意はないが適切ではない)介入から現場を守ることができる」と応じました。

そして、チームが腹落ちする瞬間として、土岐氏のバングラデシュの事例では、半日かけて「受益者にどうなってほしいか」を泥臭く議論し、言葉が降りてきた瞬間にチームの進むべき方向を見出すことができたエピソードが紹介されました。良いチームの状態とは、リーダーだけでなくスタッフ一人ひとりが自分たちの事業のゴールを自分の言葉で語れる状態でもあります。

また、「クールな左脳的な情報だけでなく、温かい気持ちになる言葉が散りばめられている」という書き込みがありました。
土岐氏は、「社会を良くしたいという一人ひとりの熱い思い(エモい瞬間)こそが活動の原動力であり、論理的なフレームワークは、その大切な感情や志を支えるために活用してほしい」と話しました。
合わせて、鎌倉氏からも、「スタッフが疲弊した状態では良い支援はできない」として、本書の第6章の「チームや自分を整えること」が紹介されました。

企業内で非営利プロジェクトを立ち上げている参加者からは、「そもそも『事業化』の定義が異なるため、前提の言語化に非常に苦労している」というコメントがありました。
土岐氏は、利益を真ん中に置く企業マインドから、「社会や人の幸せ」を真ん中に置くソーシャルのマインドへの切り替えには、痛みを伴うほどの葛藤や時間が必要であると、自身の経験を踏まえて話しました。
千葉氏は、言葉だけで理解しようとせず、関心のある「現場」に足を運んで身体的に体感することが、共通言語を育むことにつながると助言しました。

さらに、「大型プロジェクトほど計画が固定されがちだが、現場に入ってから見える実情に合わせて、どう計画を変えていくべきか」という質問が出されました。
土岐氏は、資金提供者(ドナー)に向けて、「現場に入ったからこそ見えてきた世界」を丁寧に共有し、目指す成果(アウトカム)は変えずに、そこに至る道(プロセス)を柔軟に修正していくコミュニケーションが重要であると述べました。
鎌倉氏は、ゴールやプロセスも柔軟に変えていかなければ、変化の早いVUCAの中では活動が形骸化してしまう恐れがあると指摘し、千葉氏は、最初から「計画は変わるものである」ということを共有する「期待値コントロール」が、現場を守るための工夫になると補足しました。

 

3.編集者と著者からのメッセージ
「ずっと使える1冊」として

締めくくりの挨拶として、英治出版の担当編集者である上村氏より、本書には175個もの「問い」が散りばめられていることが紹介されました。
本書は正解を教える教科書ではなく、現場で迷った時に立ち返り、自分たちで答えを見つけ出すための「ガイド」として使ってほしいという願いがあります。

最後に土岐氏から、最終的によい事業をつくったり、対象者に寄り添った判断ができるのは、現場に立っているメンバーであり、迷った時は「自分の良心」に立ち返って意思決定をしてほしいと、参加者を励ますメッセージがありました。
「皆さんが主役であり、この本は黒衣(くろこ)として使ってほしい」と締めくくり、イベントは幕を閉じました。

 

4.参加者の声

開催後のアンケートでは、参加者から次のような声をいただきました。

・「皆さんの熱量のすごさに圧倒されました。仲間がたくさんいるという実感が持て、いろいろな気付きがありました。」

・「営利・非営利の違いを改めて理解でき、チームとしてのゴールを定める上での指針を学べました。」

・「現場の団体はどうして会議が多くて長いのか少し不思議だったのですが、迷いや悩みの深さだったのか、と合点がいきました。」

・「土岐さんご自身が試行錯誤してきた経験があるからこそ、同じ立場でもがいている人に向けて「この本が力になるよ!」と、自信を持って届けていることがとても伝わってきました。」

・「NPO等の市民活動は、多様な立場や思いを持つステークホルダーとの協働や、雇用関係に依拠しない個人同士の関わりによって成り立っているため、目線合わせや合意形成のむずかしさを日々感じています。書籍からは、そうした実践に向き合うための考え方や技術的なヒントを得ることができそうです。
加えて、各地で孤軍奮闘している実践者にとっては、このような場で対話を重ねたり、同じ志や問題意識を持つ仲間と出会えたりすること自体にも、大きな意味があるのかもしれません。とても元気をいただきました。」

ご参加くださった皆さま、誠にありがとうございました。

インパクト・マネジメント・ラボでは、引き続き、書籍に関するイベントやセミナーを開催してまいります。

 

*** 書籍のご案内 ***

『ソーシャルセクターのための事業マネジメント実践ガイド
 ――混沌から「チームの道」を見出し、社会的インパクトを創出する』
・著者:土岐三輪/一般社団法人インパクト・マネジメント・ラボ
・発売日:2026年5月3日
・出版社:英治出版
・Amazonページはこちら

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